はじめに

「3階建ての戸建てを手に入れたので、3階も宿泊に使いたい」——民泊を始めようとされる方から、よくいただくご相談です。ところが住宅宿泊事業法(民泊新法)では、一戸建てや長屋を届け出る場合、宿泊者が使う部分を3階以上の階に設けることは原則としてできません物件を購入したあとにこの規制を知り、計画の練り直しを迫られる方が少なくありません。

この「3階の壁」を越えるカギになるのが、竪穴区画(たてあなくかく)です。この記事では、建築の専門知識がない方にも判断の道筋が見えるよう、国土交通省の公表資料に沿って整理します。

この記事を読むとわかること

  • 民泊で「3階を使えない」とされる根拠と、その対象になる建物
  • 「宿泊者使用部分」がどこまでを指すのか
  • 3階を使えるようにするための2つのルート
  • 竪穴区画とは何か、どの程度の工事が必要になるのか
  • 鎌倉・横須賀エリアで検討するときの確認先

住宅宿泊事業法第6条ー宿泊者の安全の確保

住宅宿泊事業法では以下のように宿泊者の安全の確保のための措置を講じるようにとあります。

第六条 住宅宿泊事業者は、届出住宅について、非常用照明器具の設置、避難経路の表示その他の火災その他の災害が発生した場合における宿泊者の安全の確保を図るために必要な措置であって国土交通省令で定めるものを講じなければならない。

民泊で確保すべき安全対策の具体的な内容は、国土交通省告示第1109号と、国土交通省住宅局建築指導課が作成した「民泊の安全措置の手引き」(令和6年4月1日最終改訂)に定められています。ただ、初めて読むと分かりにくい部分も多いため、今回はその中から「竪穴区画」というポイントに絞って説明します。

なお、本記事はあくまで民泊に関わる範囲での説明です。建築基準法の詳しい内容や具体的な工事方法については、建築士にご相談ください。

外部リンク:民泊の安全措置の手引き - 国土交通省
民泊ポータル:平成29年国土交通省告示第1109号

民泊は「住宅のまま」でも、安全のルールは上乗せされる

住宅宿泊事業法に基づく届出住宅は、あくまで建築基準法上は建築物の用途を「住宅」として扱います。旅館業のように用途変更をする必要がないのは、この扱いによるものです。

ただし、そのぶん追加的な安全確保措置が住宅宿泊事業法の側で規定されています。具体的には、法第6条を受けた国土交通省告示第1109号(平成29年)が、非常用照明器具・防火の区画・建物の規模に関する措置を定めています。「用途変更が要らない=何も手を入れなくてよい」ではない、という点がまず出発点です。

原則ルール|宿泊者使用部分を3階以上に設けてはいけない

告示第1109号は、届出住宅が一戸建ての住宅または長屋である場合に講じるべき措置として、次のように定めています。

宿泊者使用部分を3階以上の階に設けないこと(届出住宅が耐火建築物である場合を除く

逆にいえば、この規制の対象となるのは一戸建てと長屋です。マンションなどの共同住宅の一住戸を届け出る場合、この規制は適用されません。

とはいえ、実際には2つ以上の階段がすでに設けられていたり、建築時から火災報知設備が設置されている物件がほとんどです。そのため、「3階建てアパートの3階だからダメ」と早合点せず、まずはご自身の物件が一戸建てか長屋かを確認してください。

「宿泊者使用部分」は寝室だけではない

ここでつまずきやすいのが用語です。「宿泊室」は宿泊者が就寝に使う室を指しますが、「宿泊者使用部分」は届出住宅のうち宿泊者の使用に供する部分すべてで、宿泊室も含みます。台所・浴室・便所・洗面所のほか、押入れや床の間も面積に算入する考え方が示されています。

「3階を寝室にせず、リビングやミニキッチンにするだけなら大丈夫」という回避策は成り立ちません。宿泊者が立ち入って使う以上、それは宿泊者使用部分です。3階を宿泊者が一切使わない区画(家主の専用スペースや倉庫など)として明確に切り分けるのであれば話は別ですが、その場合は届出図面上でその区分をきちんと表現する必要があります。

家主居住型でも、この制限は外れない

民泊の安全措置には「家主が不在とならず、かつ宿泊室の床面積の合計が50平方メートル以下」であれば緩和される部分があります。非常用照明器具や防火の区画がこれにあたります。

しかし、建物の規模に関する措置(3階制限を含む)は、この緩和の対象外です。告示は、家主が不在とならず宿泊室50平方メートル以下の場合であっても、規模に関する措置は講じることとしています。「家主居住型だから安全措置は関係ない」と考えていると、届出の段階で行き詰まります。

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3階を使えるようにする2つのルート

ルート1:届出住宅が耐火建築物である場合

建物が建築基準法上の耐火建築物であれば、3階制限そのものが適用されません。ただし、木造の戸建て住宅が耐火建築物であるケースは限られます。既存の住宅を後から耐火建築物にすることは現実的でない場合が多く、実務ではもう一方のルートを検討することになります。

ルート2:延べ面積200平方メートル未満+警報設備+竪穴区画

もうひとつが、令和元年6月25日施行の改正で新設された緩和措置です。国土交通省の技術的助言によれば、この改正前は「耐火建築物としない限り3階を宿泊者使用部分とすることはできなかった」とされており、改正によって次の条件を満たせば耐火建築物としなくても3階を使えるようになりました。

緩和措置の適用条件

  • 届出住宅の延べ面積が200平方メートル未満であること
  • 建築基準法施行令第110条の5の技術的基準に従って警報設備が設けられていること
  • 竪穴部分とそれ以外の部分とが、間仕切壁または遮煙性能を有する戸で区画されていること

2の警報設備について、国土交通省は、消防法令に位置づけのある自動火災報知設備または特定小規模施設用自動火災報知設備を想定していると説明しています。

なお、このルートで認められるのは3階までです。4階以上を宿泊者使用部分とすることはできません

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竪穴区画とは何か

上下階をつなぐ「縦の空間」を仕切ること

竪穴部分とは、建築基準法施行令第112条第11項に定義される部分で、吹抜けとなっている部分、階段の部分、昇降機の昇降路の部分、ダクトスペースの部分などが挙げられています。長屋や共同住宅の住戸で階数が2以上のもの(いわゆるメゾネット)も含まれます。ここでは主に、階段を例にとって解説をします。

火災が起きたとき、煙は上へ上へと移動します。階段や吹抜けが上下階でつながったままだと、そこが煙の通り道になり、上階の避難が急激に困難になる。だから階段部分の縦の空間を仕切っておく——これが竪穴区画の考え方です。

民泊で求められる区画の程度

民泊で竪穴区画を設ける場合に求められるのは、間仕切壁または遮煙性能を有する戸による区画です。国土交通省の技術的助言では、これらの間仕切壁や戸について特定の仕様は求めていないとしつつ、火災時の接炎で直ちに火炎が貫通するおそれのあるもの(ふすま、障子、普通板ガラス、厚さ3ミリメートル程度の合板等)は対象外と明示しています。通常のビルや大型の施設では鉄製の防火扉の設置が必要なので、比較すると小規模な3階建て住宅の竪穴区画の施工は簡易的とも言えるでしょう。

また、区画に用いる戸は、煙感知による自動閉鎖機構と遮煙性能を備えたものである必要があり、その構造方法は昭和48年建設省告示第2564号によるか、国土交通大臣の認定を受けることとされています。

実務的なイメージとしては、階段の出入口に自動で閉まる扉を設け、階段室を壁と扉で囲うになります。近年人気のスケルトン階段や、リビング階段・吹抜けを設けた開放的な間取りの住宅は、この区画と真正面からぶつかります。物件選びの段階で、階段まわりを壁と扉で囲えるかを見ておくと安心です。改修工事の費用は建物の状況によって大きく異なります。具体的な見積りは建築士、工事業者への確認が必要です。

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3階だけではない、同時にかかる安全上の面積ルール

一戸建て・長屋の届出では、竪穴区画とあわせて次の措置も求められます。いずれも例外規定があり、どれか一つを見落とすと計画が成立しません。

講じる措置例外となる場合
2階以上の各階における宿泊室の床面積の合計を100平方メートル以下とするその階から避難階または地上に通ずる2以上の直通階段を設けている場合
宿泊者使用部分の床面積の合計を200平方メートル未満とする主要構造部を準耐火構造等とした建築物である場合ほか
各階における宿泊者使用部分の床面積の合計を200平方メートル(地階は100平方メートル)以下とするその階の廊下が3室以下の専用のものである場合ほか
2階における宿泊者使用部分の床面積の合計を300平方メートル未満とする届出住宅が耐火建築物または準耐火建築物である場合

特定一階段等防火対象物

「二以上の直通階段」と聞くと、「1階と2階、それぞれに階段があるから2つある」と誤解される方がいます。しかし、これは階段が1つとみなされる建物であり、旅館などの場合は「特定一階段等防火対象物」という区分に該当し、非常に厳しい安全措置が求められます。では、「二以上の直通階段」とは具体的にどのような状態を指すのでしょうか。例えば、建物の両側それぞれに1階まで直接つながる階段がある場合などがこれにあたります。

ポイント解説

3階建て民泊を検討するときに

届出の際には、住宅の図面に安全措置の実施内容を明示することとされています。3階を使う計画であれば、警報設備の位置と竪穴区画の内容が図面上で読み取れる状態にしておく必要があります。また、届出時には安全措置に関するチェックリストの提出が必須となり、そこには竪穴区画に関する項目もあります。物件を決める前「民泊の届出できる計画かを確かめてから決定する」この順序を必ず守りましょう。

外部リンク:住宅宿泊事業法の安全措置に関するチェックリスト|国土交通省

まとめ

  • 一戸建て・長屋の民泊では、宿泊者使用部分を3階以上に設けないことが原則
  • 「3階は寝室にしない」では回避できない。宿泊者が使う部分すべてが対象
  • 家主居住型・宿泊室50平方メートル以下でも、この規模の措置は外れない
  • 3階を使うには、耐火建築物であるか、延べ面積200平方メートル未満+警報設備+竪穴区画のいずれか
  • 竪穴区画は主に階段まわり。開放的な間取りほど工事のハードルが上がる

3階建て物件の民泊、まずはご相談ください

3階建て住宅の民泊は、「できない」と決まっているわけではありません。しかし、延べ面積・構造・階段の形状・図面の有無によって、通せる計画かどうかが分かれます。物件を買ってから気づくと、選択肢が一気に狭まります。

行政書士中尾幸樹事務所では、鎌倉市・逗子市・葉山町・横須賀市を中心に、民泊の届出と旅館業許可のご相談を承っています。図面をお持ちいただければ、3階を使える計画かどうかの見通しをお伝えできます。初回のご相談は無料です。

よくある質問(FAQ)

マンションの3階の一室でも、竪穴区画の工事は必要ですか。

今回ご説明した規模に関する措置は、届出住宅が一戸建ての住宅または長屋である場合に求められるものです。共同住宅の一住戸は対象が異なりますので、まず建物の種類を確認してください。ただし、非常用照明器具など他の安全措置は別途検討が必要です。

3階を物置にすれば、民泊可能ですか?

はい、可能です。宿泊者が使用しない部分であれば、宿泊者使用部分にはあたりません。ただし、その区分は届出図面上で明確にする必要があり、実際の運用も図面どおりでなければなりません。「届出では使わないことにして、実際は使う」は認められません。

旅館業(簡易宿所)にすれば3階を自由に使えますか。

「自由に」とはいきません。旅館業では建築基準法上の用途がホテル・旅館となり、届出住宅とは別の防火・避難規定の適用を受けます。3階建て以上では用途による耐火建築物等の要求もかかるため、民泊新法より要件が重くなる場面もあります。どちらの制度で進めるかは、物件ごとの比較検討が必要です。


本記事は、国土交通省住宅局建築指導課「民泊の安全措置の手引き」(令和6年4月1日最終改訂)等の公表資料に基づき作成しています。個別の物件については、所管の建築部局・保健所・消防にご確認ください。


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