はじめに

3階建ての戸建てで民泊をするとき、消防上の思わぬ壁にぶつかることがあります。原因は「3階建てだから」ではありません。階段の数と配置によって、必要な消防設備が格段に厳しくなるためです。この扱いには、過去の火災から得た教訓が生かされています。

今回は「特定一階段等防火対象物」とは何か、民泊にするとなぜ関係してくるのか、該当すると消防設備の話がどう変わるのかを、消防庁の公表資料に基づいて民泊専門の行政書士が整理します。なお、建築の技術的な話には立ち入りません。

この記事を読むとわかること

  • 特定一階段等防火対象物とは、どんな建物のことか
  • 住宅を民泊にした瞬間に、この判定の対象になる仕組み
  • 該当すると自動火災報知設備の選択肢がどう狭まるのか
  • 令和6年の改正で使えるようになった無線式の特小自火報
  • 鎌倉市が公表している、階段が一つの建築物の避難の考え方

特定一階段等防火対象物とは ─ 要するに「逃げ道が1本しかない建物」

長い名前ですが、意味はシンプルです。宿泊施設が3階(又は地階)にあって、避難階(通常1階の玄関)まで階段が1本しかないのがそれです。

ただし、その階段が屋外にも設けられている場合や、避難上有効な構造を備えている場合は、1つでも足りるとされています。いい例とダメな例については上記の画像を見て確認してください。

屋内階段が1本しかない場合、その唯一の避難路が火や煙で塞がれると逃げ場がなくなるため、通常より厳しい扱いを受けます。普通の家では3階建でも階段を2経路作ることはありません。なぜなら通常の居宅用の住宅はこの基準の例外になっているからです。しかし、不特定多数の利用客を宿泊させるビジネスである民泊や旅館業は、消防法上の特定防火対象物にあたるため、一般住宅と同じ扱いにはなりません。

では、特定1階段防火対象物の判定のポイントです。以下の2つを見ましょう。

  • 屋外階段の有無:屋内の階段が1つでも、屋外に避難階まで通じる階段があれば扱いが変わります
  • 避難階がどこか:傾斜地の多い鎌倉・横須賀では、道路との高低差の関係で、どの階が避難階になるのか図面を見ないと判断できない物件が珍しくありません。階数だけで決めつけないでください
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なぜ民泊や簡易宿所で関係してくるのか

上でいう「一定の用途」には、消防法令上、防火対象物に指定されていて、その中でも特にリスクの高いとされる特定防火対象物に宿泊施設が含まれます。住宅を民泊にすると、消防法令で規定されているこの宿泊施設に判定される場合があります。

一戸建てでは、人を宿泊させる間に家主が不在となるとき、または家主がいても宿泊室の床面積の合計が50㎡を超えるときに宿泊施設と判定されます。家主が不在とならず、宿泊室の合計が50㎡以下であれば一般住宅の扱いです。(5項イに該当しない)

つまり、同じ建物でも、住宅として使っているうちは関係がなく、家主不在民泊や簡易宿所にした瞬間に消防法令上の判定の土俵に乗ることがあります。民泊は既存住宅のまま使えるという言葉で誤解される方が大勢いるため注意が必要です。

共同住宅の場合は、まず住戸ごとに用途を判定し、その結果をもとに棟全体の用途が決まります。宿泊施設となる住戸の割合によって、棟全体が宿泊施設扱いになったり、複合用途になったりするため、自分の住戸だけを見て判断できない構造になっています。

消防法第17条1項
学校、病院、工場、事業場、興行場、百貨店、旅館、飲食店、地下街、複合用途防火対象物その他の防火対象物で政令で定めるものの関係者は、政令で定める消防の用に供する設備、消防用水及び消火活動上必要な施設(以下「消防用設備等」という。)について消火、避難その他の消防の活動のために必要とされる性能を有するように、政令で定める技術上の基準に従つて、設置し、及び維持しなければならない。

防火対象物の一覧 | 消防法施行令別表第1

さて3階建ての戸建て民泊物件が特定1階段防火対象物になるか否かは法令の定めによるところであり、かの有名な消防法施行令別表第1(別表1)を見れば一目瞭然です。

用途
(1)イ 劇場、映画館、演芸場又は観覧場ロ 公会堂又は集会場
(2)イ キャバレー、カフェー、ナイトクラブその他これらに類するものロ 遊技場又はダンスホールハ 風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(昭和23年法律第122号)第2条第5項に規定する性風俗関連特殊営業を営む店舗((1)項イ、(4)項、(5)項イ及び(9)項イに掲げる防火対象物の用途に供されているものを除く。)その他これに類するものとして総務省令で定めるもの
(3)イ 待合、料理店その他これらに類するものロ 飲食店
(4)百貨店、マーケットその他の物品販売業を営む店舗又は展示場
(5)イ 旅館、ホテル、宿泊所その他これらに類するもの
ロ 寄宿舎、下宿又は共同住宅
(6)イ 病院、診療所又は助産所
ロ 老人福祉施設、有料老人ホーム、介護老人保健施設、救護施設、更生施設、児童福祉施設(母子生活支援施設及び児童厚生施設を除く。)、身体障害者更生援護施設(身体障害者を収容するものに限る。)、知的障害者援護施設又は精神障害者社会復帰施設
ハ 幼稚園、盲学校、聾学校又は養護学校
(7)小学校、中学校、高等学校、中等教育学校、高等専門学校、大学、専修学校、各種学校その他これらに類するもの
(8)図書館、博物館、美術館その他これらに類するもの
(9)イ 公衆浴場のうち、蒸気浴場、熱気浴場その他これらに類するもの
ロ イに掲げる公衆浴場以外の公衆浴場
(10)車両の停車場又は船舶若しくは航空機の発着場(旅客の乗降又は待合いの用に供する建築物に限る。)
(11)神社、寺院、教会その他これらに類するもの
(12)イ 工場又は作業場ロ 映画スタジオ又はテレビスタジオ
(13)イ 自動車車庫又は駐車場ロ 飛行機又は回転翼航空機の格納庫
(14)倉庫
(15)前各項に該当しない事業場
(16)イ 複合用途防火対象物のうち、その一部が(1)項から(4)項まで、(5)項イ、(6)項又は(9)項イに掲げる防火対象物の用途に供されているもの
ロ イに掲げる複合用途防火対象物以外の複合用途防火対象物
(16の2)地下街
(16の3)建築物の地階((16の2)項に掲げるものの各階を除く。)で連続して地下道に面して設けられたものと当該地下道とを合わせたもの((1)項から(4)項まで、(5)項イ、(6)項又は(9)項イに掲げる防火対象物の用途に供される部分が存するものに限る。)
(17)文化財保護法(昭和25年法律第214号)の規定によつて重要文化財、重要有形民俗文化財、史跡若しくは重要な文化財として指定され、又は旧重要美術品等の保存に関する法律(昭和8年法律第43号)の規定によつて重要美術品として認定された建造物
(18)延長50メートル以上のアーケード
(19)市町村長の指定する山林
(20)総務省令で定める舟車

*青い部分は特定防火対象物に指定されています。戸建民泊の用途は住居ですが、消防法上は5項イに該当します。

備考

  1. 2以上の用途に供される防火対象物で第1条の2第2項後段の規定の適用により複合用途防火対象物以外の防火対象物となるものの主たる用途が(1)項から(15)項までの各項に掲げる防火対象物の用途であるときは、当該防火対象物は、当該各項に掲げる防火対象物とする。
  2. (1)項から(16)項までに掲げる用途に供される建築物が、同項に掲げる防火対象物内に存するときは、これらの建築物は、(16の2)項に掲げる防火対象物の部分とみなす。
  3. (1)項から(16)項までに掲げる用途に供される建築物又はその部分が(16の3)項に掲げる防火対象物の部分に該当するものであるときは、これらの建築物又はその部分は、同項に掲げる防火対象物の部分であるほか、(1)項から(16)項に掲げる防火対象物又はその部分でもあるものとみなす。
  4. (一)項から(16)項までに掲げる用途に供される建築物その他の工作物又はその部分が(17)項に掲げる防火対象物に該当するものであるときは、これらの建築物その他の工作物又はその部分は、同項に掲げる防火対象物であるほか、(一)項から(16)項までに掲げる防火対象物又はその部分でもあるものとみなす。

備考の簡単解説

備考1(みなし単一用途)
複数の用途がある建物でも、消令1条の2第2項後段により「複合用途防火対象物」として扱わないとされたものは、その中で一番メインの用途が(1)~(15)項のどれかに当てはまれば、建物全体をその項の防火対象物として扱います。
→ 要は「主たる用途で丸ごと区分する」というルールです。

備考2(地下街に含まれる場合)
(1)~(16)項の用途の建物が、(16の2)項=地下街の中にある場合は、その部分を地下街の一部として扱います。
→ 地下街の中の店舗等は、個別の用途ではなく「地下街の一部」という扱いになる、ということです。

備考3(準地下街)の例
駅の地下通路に直結した地下街的な commercial ゾーンをイメージしてください。そこにあるレストランは、本来は(3)項(飲食店)です。しかしこの区画全体が「準地下街」(16の3項)の指定を受けている場合、このレストランは:

  • (3)項の防火対象物 として扱われる(通常の飲食店としての消防基準)
  • 同時に(16の3)項の防火対象物の一部 としても扱われる(地下通路に直結する施設特有の追加基準)

→ 両方の基準を満たす必要がある、ということです。地下は避難経路が限られ延焼・煙の危険が高いため、「元の用途の基準」+「地下特有の基準」を上乗せで課すイメージです。

備考4(重要文化財等)の例
国宝・重要文化財に指定されているお寺の建物を、拝観者向けの休憩所や宿坊(宿泊施設)として使っているケースを想像してください。この建物は:

  • 宿泊施設としての用途区分(例:(5)項など) として扱われる
  • 同時に(17)項(文化財)の防火対象物 としても扱われる

→ 「宿泊施設としての基準」と「文化財としての特別な基準(火災時に貴重な建物・文化財を守るための基準)」の両方が適用される、ということです。

該当すると、より厳格な消防設備が必要になる

特定一階段等防火対象物に該当する建物では、3階以上に原則として避難器具の設置も必要です。代表的なものが避難梯子や緩降機です。以下の動画はORIRO株式会社様の緩降機で、操作方法をご確認いただけます(出典:株式会社ORIRO )。パニック状態の宿泊客が実際に安全に操作できるかは別問題ですが、そもそも一般住宅にこの設備を設置すること自体、非常に高いハードルとなっているのが実情です。

さらに、自動火災報知設備の設置も必須です。この設備は設置費用が高額なため、通常の戸建て住宅に備えられることはほとんどありません。しかし旅館業などの特定防火対象物に該当する物件では、従来から設置が義務付けられていました。小規模な2階建て戸建てであれば、無線式の「特定小規模施設用自動火災報知設備(特小)」の設置で足りる免除規定もありますが、特定一階段等防火対象物は明確にこの適用除外の対象外とされています。

そのため、壁や床の内部に配線工事を伴う通常の自動火災報知設備を選ばざるを得ません。工事費用が高額になることから、特定一階段等防火対象物に該当する戸建て民泊・簡易宿所の多くが、運営自体を断念せざるを得なかったのが実情です。

ポイント解説

家電量販店などで売られている連動型住宅用火災警報器は、感知性能などが異なるため、特小自火報の代わりにはなりません。買い直しは丸ごと無駄になります。選定は必ず専門業者と相談のうえ行ってください。

令和6年7月の改正で、特小自火報が使えるようになりました

この状況が変わったのが、令和6年7月に施行された改正です。

1. 階段が実質1本しかない建物も、延べ面積または床面積が300㎡未満であれば、特小自火報を使える対象に加えられました。

2. そのかわり、感知器を付ける場所が増えます 特定一階段等防火対象物では、居室や収納室などに加えて、階段や廊下、エレベーターの昇降路などにも感知器を設けることとされました。居室だけに付ければ済む話ではありません。

3. すべての感知器を「出火区域がわかるタイプ」にする必要があります 音声で出火場所を知らせる機能を持つ感知器を使うことが前提になっています。この機能を持つ感知器には専用の表示がされますが、経過措置があり、表示のない旧製品が使われている場合もあるため、表示の有無だけでなく機能で確認してください。

特定小規模施設用自動火災報知設備(特小自火報)とは?民泊での設置基準と費用相場

民泊に必須の特定小規模施設用自動火災報知設備を徹底解説。2023年改正で条件次第で3階建ても対象に。設置基準、感知器の配置場所、費用目安、自分で設置できるか、点検義務、報告まで。鎌倉・逗子・横須賀エリアで民泊開業する方必見です。

地域ごとの違い ─ 鎌倉・横須賀の場合

鎌倉市消防本部は、直通階段が一つの建築物について、唯一の避難経路である階段付近で火災が発生すると避難が困難になる可能性が高いとして、総務省消防庁が策定した避難行動のガイドラインを紹介しています。

そこでは、避難の第一選択肢を直通階段、第二選択肢を避難上有効なバルコニー、第三選択肢を直通階段から離れた居室等としたうえで、関係者が日頃から訓練等を通じて備えるよう求めています。

さらに安全性を高める改修として、直通階段の増設や避難上有効なバルコニーの設置による二方向避難の確保、それが難しい場合には、消防隊が到着するまでの間、一時的に人命の安全が保たれるよう防火的に区画された「退避区画」の設置が挙げられています。建物の改修については、特定行政庁への確認が必要です。

階段が1つの物件は、消防設備の負担が重いという話であると同時に、火災時に宿泊者が逃げにくい建物だという話でもあります。設備を入れて終わりにせず、避難経路まで含めて考えておくことをおすすめします。

外部リンク: 鎌倉市|階段が⼀つの建築物における火災発生時の適切な避難のために

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まとめ

特定一階段等防火対象物とは、地下または3階以上に宿泊部分があり、そこから逃げるための階段が実質1本しかない建物のことです。住宅として使っているうちは関係がなくても、民泊や簡易宿所にして宿泊施設と判定されると、この判定の対象になります。

該当すると自動火災報知設備の選択肢が狭まりますが、令和6年7月の改正により、300㎡未満であれば無線式の特小自火報も選べるようになりました。そのかわり感知器は階段や廊下などにも必要で、機器の機能面にも要件があります。最終的な判断は管轄の消防本部にありますので、図面を持って事前相談に行くところから始めてください。

弊所は民泊の手続きを専門に行う行政書士事務所です。各分野のエキスパート(不動産屋、電気工事会社、住宅宿泊管理業者、民泊運営代行業者等)と提携することで、事業主様の手間を減らし、ワンストップで迅速・確実に届出・許可の取得まで導きます。

民泊、簡易宿所をご検討の方は是非、下記のお問い合わせからお気軽にお問い合わせください。

よくある質問(FAQ)

どんな建物が「特定一階段等防火対象物」に当たりますか?

宿泊施設などの用途に使われている部分が、地上に直接出られない階にあり、そこから避難階または地上まで通じる階段が実質1本しかない建物です。屋外階段や避難上有効な構造の階段があれば1本でも該当しません。

3階建ての一軒家なら必ず該当しますか?

階数だけでは決まりません。宿泊部分がどの階にあるか、階段が何本あるか、避難階がどこかという条件で決まります。3階建てでも、階段が2本あれば該当しないこともあります。

該当すると何が変わりますか?

自動火災報知設備の設置方法のが変わります。感知器を階段や廊下にも設ける必要があり、感知器自体にも機能面の条件が付きます。

無線式の特小自火報は使えますか?

令和6年7月の改正で、延べ面積または床面積が300㎡未満であれば使える対象に加えられました。ただし、すべての感知器を出火区域が特定できるタイプにする必要があります。また、接続できる機器数の上限もある為、気を付けましょう。

判定に迷う物件はどうすればいいですか?

傾斜地に建つ物件や、増築で階段の配置が複雑な物件は特に判断が分かれやすいところです。自己判断で設備を発注する前に、消防予防課への事前相談を挟んでください。


出典

  • 消防庁「民泊における消防法令上の取扱い等に関するリーフレット(令和8年3月時点版)」
  • 消防庁「火災報知設備の感知器及び発信機に係る技術上の規格を定める省令及び特定小規模施設における必要とされる防火安全性能を有する消防の用に供する設備等に関する省令の一部を改正する省令(案)等に対する意見公募の結果及び改正省令等の公布」(令和6年7月23日/令和6年総務省令第74号、令和6年消防庁告示第11号)
  • 消防庁予防課「特定小規模施設用自動火災報知設備の設置基準の改正について」(令和5年8月・予防行政のあり方に関する検討会 資料1-3)
  • 鎌倉市消防本部予防課「階段が⼀つの建築物における火災発生時の適切な避難のために」(2024年12月11日更新)
  • 出典:株式会社ORIRO

※「特定一階段等防火対象物」は消防法施行規則第23条第4項第7号ヘに、「避難階以外の階」は消防法施行令第4条の2の2第2号に、避難上有効な構造は消防法施行規則第4条の2の3に、それぞれ規定されています。令和6年の改正で特小自火報の対象に加えられたのは、消防法施行令第21条第1項第7号などに掲げる防火対象物またはその部分です。

情報の基準日:2026年8月4日


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